はじめに
ECS/Fargateでコンテナを非rootユーザーとして実行したところ、ログ出力先のディレクトリでPermission deniedが発生したことがありました。
Dockerfileでは、ログ出力先のディレクトリを作成し、アプリケーションを実行するユーザーへchownしていました。Dockerイメージだけを見ると、書き込みできるように設定されています。
問題が起きたのは、アプリケーションコンテナとFluent Bitコンテナでログ用のVolumeを共有する構成にしたときでした。
原因を調べていくと、Dockerfileの設定が常に無効になるという単純な話ではありませんでした。Dockerfile、ECSタスク定義、Volumeを個別に確認するだけではなく、それらを組み合わせた実行時の最終状態まで設計対象にできていたかという問題に行き着きました。
この記事では、実際に発生した事象とAWS公式ドキュメントで確認した仕様を整理しながら、なぜ設計段階でこの問題に気づけなかったのか、事前のPoCで何を確認しておけばよかったのかまで振り返ります。
現在は当時の環境で追加検証できる状況にありません。実案件で確認できている事実、AWS公式仕様、今回の環境では実機確認していない対策候補を分けて記載します。
ECS/FargateでPermission deniedが発生した
今回の構成を単純化すると、アプリケーションがファイルへログを書き込み、同じVolumeをマウントしたFluent Bitがそのログを読み取る構成でした。
Application Container
非rootユーザー
│
│ ログ書き込み
↓
Shared Volume
│
│ ログ読み込み
↓
Fluent Bit Container
ECSのタスク定義では、Volumeを定義し、アプリケーションコンテナとFluent Bitコンテナの双方へマウントしていました。
本記事では、タスク定義でボリューム名を定義した空のデータVolumeを、AWS公式ドキュメントに合わせてbind mountと呼びます。AWS公式でも、bind mountの用途として、1つ以上のコンテナにマウントする空のデータVolumeが示されています。Fargateでは、bind mountにタスクへ割り当てられたエフェメラルストレージが利用されます。
詳細は、AWS公式「Amazon ECSでのバインドマウントの使用」とAWS公式「Amazon ECS向けのFargateタスクエフェメラルストレージ」で確認できます。
アプリケーションコンテナは非rootユーザーで動作させていました。Dockerfileでは、概念的には次のようにログ出力先を作成し、所有者を変更しています。
RUN mkdir -p /app/logs
RUN chown appuser:appgroup /app/logs
USER appuser
タスク定義側のuserによる上書きはなく、実行ユーザーはDockerfileのUSERで指定した非rootユーザーでした。
このDockerイメージだけを見ると、appuserが/app/logsへ書き込めるように見えます。
ところがECS/Fargate上でタスクを起動すると、アプリケーションがログを書き込む際にPermission deniedが発生しました。
Dockerfileでchownしたのに、なぜ書き込めなかったのか
問題を分かりにくくしていたのは、Dockerfile内の/app/logsと、ECS上でVolumeをマウントした後の/app/logsを同じ状態として見ていたことでした。
Dockerイメージ内では、対象ディレクトリの所有者をappuserへ変更しています。
Docker Image
/app/logs
owner = appuser
ECSで同じ/app/logsへVolumeをマウントすると、コンテナから見えるのはマウントされたVolume側のファイルシステムです。
Docker Image
/app/logs
owner = appuser
│
│ ECS Task起動
↓
Volumeを/app/logsへmount
↓
コンテナから見える/app/logs
= Volume側
Dockerfileで設定したディレクトリが削除されたわけではありません。同じパスへVolumeをマウントしたことでイメージ側のディレクトリが覆い隠され、実行中のコンテナからはVolume側が見える状態になります。
ここで重要になるのが、DockerfileのVOLUMEディレクティブです。
DockerfileのVOLUMEとcontainerPathが一致する場合
Amazon ECSでは、DockerfileのVOLUMEで指定した絶対パスと、タスク定義のcontainerPathが一致する場合、そのパス内のデータをデータVolumeへコピーする仕様があります。
AWS公式ドキュメントには、非rootユーザー向けに対象ディレクトリをchownし、USERを指定した後にVOLUMEを宣言する例も掲載されています。また、この文脈で既定のVolume権限を0755、所有者をrootとし、Dockerfileでカスタマイズできることが説明されています。
詳細は、AWS公式「Amazon ECSでのバインドマウントの使用」を参照してください。
概念的には次のような記述です。
RUN mkdir -p /app/logs
RUN chown appuser:appgroup /app/logs
USER appuser
VOLUME ["/app/logs"]
今回使用していたDockerfileには、ログ出力先をVOLUMEとして宣言する記述はありませんでした。
当時は、Dockerfile側の権限設定とECS Volumeを接続するこの条件そのものを、設計観点として認識していませんでした。
VOLUME宣言がなかったことだけでPermission deniedの原因をすべて確定できるわけではありません。実際のVolume側のownerやmode、アプリケーションの実効UID/GID、書き込み対象パスの組み合わせによって書き込み可否は決まります。
それでも、Dockerfileで設定した所有者だけを見て書き込み可能と判断していたこと、DockerfileとECS Volumeを接続した後の状態を設計対象にしていなかったことは、今回の事象を説明する重要な要因でした。
現在は当時の環境で追加検証できないため、VOLUMEを追加すれば今回の問題が解消したとまでは断定しません。AWS公式仕様で確認できる対策候補の一つとして扱います。
実効ユーザーもDockerfileだけで確認しない
ECSでは、タスク定義にもコンテナを実行するuserを指定できます。このパラメータはDockerのUserや--userに対応します。
今回のタスク定義ではuserを指定しておらず、DockerfileのUSERを上書きする設定はありませんでした。
設計レビューでは、Dockerfileに何が書かれているかだけではなく、実行時に最終的にどのUID/GIDでプロセスが動くのかを確認する必要があります。Volumeの権限と同じく、見るべきなのは設定ファイル単体ではなく、ECS上で成立する最終状態です。
userパラメータの仕様は、AWS公式「FargateでのAmazon ECSタスク定義パラメータ」で確認できます。
対策はchownの方法だけで考えない
Permission deniedが発生すると、chmodやchownの方法から考えたくなります。
今回の構成を設計の観点から見直すと、その前に確認すべきことがあります。
アプリケーションコンテナとFluent Bitの間に、そもそも共有Volumeが必要なのか。
権限をどう合わせるかだけではなく、権限調整が必要になる境界そのものをなくせないかを最初に検討します。
共有Volume自体をなくせないか
今回の構成は次のようになっていました。
Application
↓ file
Shared Volume
↓ file
Fluent Bit
ログ出力要件が許せば、アプリケーションのログをファイルへ出力せず、awsfirelensログドライバ経由でFluent Bitへ渡す構成も考えられます。
FireLensでは、アプリケーションコンテナにawsfirelensログドライバを設定し、Fluent BitまたはFluentdをログルーターとして利用できます。
詳細は、AWS公式「Amazon ECSタスク定義の例:FireLensにログをルーティングする」を参照してください。
Application
↓ awsfirelens
Fluent Bit
この構成に変更できれば、アプリケーションとFluent Bitの間でログファイルを共有するVolumeをなくせる可能性があります。Volumeに付随するowner、group、mode、UID/GID、マウント後の権限といった設計項目も減らせます。
実案件でも、ログ出力方式そのものを変更して共有Volumeをなくす案を検討しました。既存のログ出力方式を変更するとAP側での改修と再テストが必要になるため、今回は共有Volumeを残したうえで権限設定方法を変更する判断としました。
設計として上位の選択肢を検討しても、変更影響やプロジェクト条件によって採用できないことがあります。
重要なのは、「権限エラーをどう直すか」から始めるのではなく、「その権限設計自体をなくせないか」を一度確認したうえで、案件条件に合った方法を選ぶことです。
VOLUMEディレクティブを利用する方法
共有Volumeを残す場合には、前述したDockerfileのVOLUMEとcontainerPathの仕様を利用する方法も候補になります。
この方法ではDockerfile、すなわちコンテナイメージそのものを変更します。ECS上の課題を解決する目的でVOLUMEを追加しても、同じイメージを別の環境で実行した場合の挙動にも影響します。
今回の環境ではこの方法を追加検証していないため、AWS公式仕様から確認できる対策候補としての紹介に留めます。
補足:configuredAtLaunchはbind mountの設定ではない
対策を調べる過程では、ECSのVolumeに関する情報を複数確認しました。その中で紛らわしかったのがconfiguredAtLaunchです。
名称からはVolumeの初期設定に使えるようにも見えますが、configuredAtLaunch=trueは、ECSのデプロイ時にAmazon EBS Volumeを構成するための設定です。今回利用していたbind mountの権限を変更するためのオプションではありません。
AWS公式「Amazon ECSのデプロイ時にAmazon EBSボリューム設定を指定する」でも、configuredAtLaunchをtrueに設定したタスク定義に対して、デプロイ時にAmazon EBS Volumeを構成する仕組みとして説明されています。
同じ「Volume」という言葉で扱われていても、bind mount、EBS、EFSでは仕様も設定方法も異なります。目にした情報をそのまま設計判断に使うのではなく、自分が利用しているVolume方式を特定したうえで、該当する公式ドキュメントを確認する必要があります。
権限設定用コンテナを先行して実行する
別の方法として、Volumeの所有者や権限を設定するコンテナを先に実行し、正常終了した後にアプリケーションコンテナを起動する構成があります。
ECSではdependsOnでコンテナ間の起動依存関係を設定できます。SUCCESSを指定すると、依存先コンテナが終了コード0で完了するまで後続コンテナを開始しません。SUCCESSとCOMPLETEの依存先にはessential containerを指定できません。
詳細は、AWS公式「FargateでのAmazon ECSタスク定義パラメータ」を参照してください。
Permission Setting Container
│
│ Volumeの所有者・権限を設定
│ exit 0
↓
Application Container
↓
Fluent Bit Container
権限設定用コンテナには、共有Volumeへ必要な所有者・権限を設定できる権限を持たせます。アプリケーションコンテナ自体は従来どおり非rootユーザーで実行します。
この方法であれば、アプリケーションイメージを変更せず、タスク定義を中心とした基盤側の変更で対応できます。
rootユーザーで実行する
アプリケーションコンテナ自体をrootユーザーで実行する方法もあります。
権限問題は回避しやすくなりますが、非root実行を前提としていたセキュリティ設計との整合を確認する必要があります。動作するかどうかだけではなく、なぜ非rootユーザーで実行する設計にしていたのかまで戻って判断する必要があります。
技術的に動く対策と、プロジェクトで採用できる対策は違う
今回検討した方法を、変更対象まで含めて整理すると次のようになります。
| 対策 | 主な変更対象 | 実務上の論点 |
|---|---|---|
| 共有Volumeをなくす | アプリケーション/ログ出力設定/タスク定義 | 既存のログ出力方式を変更できるか |
VOLUMEを利用 | Dockerfile/コンテナイメージ | AP側成果物の変更と再テストが必要 |
| 権限設定用コンテナ | タスク定義 | 基盤側で完結しやすいが構成要素が増える |
| rootで実行 | 実行ユーザー/セキュリティ設計 | 非root要件との整合が必要 |
最終的には、権限設定用コンテナを先行して実行する構成を採用しました。
アプリケーション側を修正したりログ出力仕様を変更したりする場合、AP側での改修とテストが必要になります。権限設定用コンテナの追加であれば、タスク定義を管理する基盤側で変更を完結でき、既存のコンテナイメージにも影響を与えません。
変更範囲を基盤側に限定できることから、この方式を採用しました。 この構成への変更後は、非rootユーザーで実行するアプリケーションからログを正常に書き込めるようになり、Permission deniedは解消しました。
技術的に成立する対策と、プロジェクトとして採用しやすい対策は同じとは限りません。変更主体、責任分界、変更影響、追加試験の範囲まで含めて対策を決める必要があります。
なぜ設計段階で気づけなかったのか
今回の問題で重要なのは、ECSのVolume仕様を知っていたかどうかだけではありません。
結果として、Dockerfileで設定した権限と、ECSがVolumeをマウントした後の実効権限との接続部分を、設計時に十分確認できていませんでした。
Dockerfileだけを見れば、確認対象は次の範囲です。
Dockerfile
├ mkdir
├ chown
└ USER
実際には、その後ろまで設計する必要があります。
Docker Image
↓
ECS Task Definition
↓
Volume生成
↓
containerPathへmount
↓
実効UID/GID
↓
Applicationからwrite
↓
Fluent Bitからread
「Dockerfileで対象ディレクトリをchownしたこと」と、「Volumeをマウントした実行環境でアプリケーションユーザーが書き込めること」は同じではありません。
前者は設定内容です。設計で最終的に保証したいのは後者です。
「担当者が知らなかった」で終わらせない
今回のECS Volumeの仕様を知っている担当者であれば、設計段階で問題に気づけた可能性があります。
原因を「担当者が仕様を知らなかった」で終わらせても、次の案件で同じ問題を防ぐ仕組みにはなりません。
クラウドでは、自分たちがDockerfileや設定ファイルへ直接記述するものだけでなく、クラウドサービスが実行時に生成、マウント、変更するものがあります。必要なのは、それらを含めた実行時の最終状態を設計する観点です。
今回であれば、設計レビューでは次のような項目を確認すべきでした。
| 設計項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| Volume方式 | bind mount、EBS、EFSなど、どの方式を利用するか |
| Volume生成 | 誰が、いつ生成するか |
containerPath | どのパスへマウントするか |
Dockerfile VOLUME | 定義の有無とcontainerPathとの関係 |
| 実効UID/GID | DockerfileのUSER、タスク定義のuserを踏まえて誰が実行するか |
| Application側権限 | 誰が、どのパスへwriteするか |
| Fluent Bit側権限 | 誰が、どのパスをreadするか |
| owner/group/mode | Volumeマウント後にどうなるべきか |
| 起動順 | 権限設定が必要な場合、いつ実施するか |
| Volumeライフサイクル | タスク停止・再作成時にデータや設定がどうなるか |
| 変更主体 | Dockerfile、タスク定義、ログ設定の誰が変更するか |
Fargateで利用するbind mountはタスクのエフェメラルストレージ上にあり、bind mountを使用するすべてのコンテナが停止するとデータは削除されます。今回のようなFargateタスクでは、タスク停止時のライフサイクルまで含めて設計する必要があります。
詳細は、AWS公式「Amazon ECSでのバインドマウントの使用」を参照してください。
設計書に「Dockerfileでchownする」と書くだけでは足りません。Volumeをマウントした後に、どのUID/GIDが、どのパスへ、どの権限でアクセスできるのかを定義する必要があります。
ここまで書いて、初めて実行時の権限設計になります。
この考え方は、ECSだけに限りません。基本設計で決めた方式を、構築・テストできる状態までどう落とすかについては、次の記事で詳しく整理しています。
事前PoCでは、ここまで確認すべきだった
今回の問題は、設計段階のPoCで発見できた可能性があります。
ECSでコンテナが起動することだけを確認するPoCでは足りません。
今回のPermission deniedを検出するだけなら、大掛かりな試験は必要ありませんでした。本番と同じ非rootユーザーとVolume構成でタスクを起動し、次の範囲を確認すれば、書き込み権限の問題を設計段階で検出できた可能性があります。
ECS Task起動
↓
実効UID/GIDを確認
↓
Volume mount後のowner/group/modeを確認
↓
Applicationからファイル作成
↓
Applicationからディレクトリ作成
これが、今回の問題を発見するために必要だった最低限のPoCです。
ログ機構全体の成立性まで確認するのであれば、その先にFluent Bitからの読み取り、ログ転送、Task再作成後の動作まで確認します。
Applicationからwrite
↓
Fluent Bitからread
↓
ログ転送
↓
Task再作成後も成立するか
設計レビュー表とPoCで似た項目を確認するのには理由があります。
設計では、実行時に成立すべき状態を定義する。PoCでは、その状態が実際の環境で成立することを確認する。
今回なら、設計では「非rootのアプリケーションユーザーがVolumeマウント後のログ出力先へwriteできる」と定義します。PoCでは、本番相当のユーザーとVolume構成で実際にファイルを作成して確認します。
PoCは「AWSのサービスが使えるか」を試すだけの工程ではありません。
本番と同じ境界を通したときに、設計したシステムが成立するかを確認する工程です。
クラウドリフトでも、AWSサービス単体の機能確認だけを行い、オンプレミスからクラウドへ移した後の実際の処理や運用まで通さなければ、問題が後工程で表面化します。今回のVolume権限も規模は小さいものの、構造は同じでした。
クラウドリフトでPoCに何を含めるべきかは、次の記事で詳しく整理しています。
- クラウドリフトの失敗は構築前に始まっている|PoC不足が手戻り・コスト超過・納期遅延を招く理由
- クラウドリフトPoCで「動いた」は確認できた。しかし業務では使えなかった|10の設計リスク① 可用性・性能・ストレージ・バックアップ・監視
今回の事象から得た3つの学び
一つ目は、Dockerfileは設定であって、実行時の最終状態ではないことです。
DockerfileでUSERやchownを指定しても、それだけでECS上の実効ユーザーやVolumeマウント後の権限は確定しません。設計で確認するべきなのは、各設定をECS上で組み合わせた後の最終状態です。
二つ目は、設計で抜けやすいのはコンポーネント単体ではなく、その接続部分であることです。
Dockerfileの設定もECSのVolume定義も、それぞれ単体で存在しています。今回確認できていなかったのは、DockerイメージとECS Volumeを接続した後に、どのユーザーがどのファイルシステムへアクセスするのかという実行時の状態でした。
三つ目は、PoCでは本番と同じ境界を通す必要があることです。
コンテナが起動したことだけでは、システムとして成立したことにはなりません。本番と同じUID/GID、Volume、マウントポイント、サイドカーを含めて実際の処理を通し、設計した状態が成立することを確認する必要があります。
今回の事象を振り返ると、
「Dockerfileでchownした」ではなく、「Volumeをマウントした後に、必要なユーザーが必要な操作をできる」まで確認して初めて権限設計は完了する
ということになります。
クラウドでは、自分たちが直接構築・設定したものだけを見るのでは足りません。クラウドサービスが実行時に生成、変更、接続するものまで含めて最終状態を設計し、不確実性が残る境界は事前PoCで実際に通す。
今回のPermission deniedは小さな権限エラーでしたが、クラウド設計とPoCで何を確認するべきかを改めて考えるきっかけになりました。
参考にしたAWS公式ドキュメント
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